書評:夜と霧 新版
本書は著者がアウシュビッツ収容された際の経験を元にされているが、決してお涙頂戴的な本ではない。
著者は精神分析学者として、学者の視点でアウシュビッツで起きる様々な人権的苦痛に被収容者がどう立ち向かうのかを刻々と記録したドキュメントである。
強制収容所で過酷な労働をさせられたり、満足に与えられない食事で生物的に死に追いやられる状況はもちろん本書でも多少語られるが、主に展開されるコンテキストはその状況に対して精神的に人間がどう対峙するかについて。
追い詰められる被収容者の精神崩壊
追い詰められても生への執着する被収容者
ぞんざいに被収容者を扱い追い詰める立場の監督官の精神状況
突き詰めて人間がどうして存在するのかについて哲学的な問いまで及ぶ
悲しい体験記を元に書かれた哲学書と行っても過言ではないと思われる。